DTPとWeb。

その筋の人間にはよく話すネタで聞き飽きてるだろうけど、紙の世界は歴史が長いからその分だけセオリーも確立してるし、洗練され具合はWebの世界とは比較にならない。
でもって、紙の世界では生き残れなくてWeb、バーチャルの世界に移民した、大航海時代アメリカ大陸を目指した貧しいヨーロッパ人みたいなデザイナーも少なからずいるってのはよく業界ネタで話題に挙がる。
それも間違いなく好意的ではないネタとして。中には、

『紙の世界で食っていけないくせにWebなら食っていけるなんて発想が甘過ぎ
『我が物顔でWebを語るヤツに限って紙の世界での負け犬だ』
『奴らが勘違いしてデカイ面してられるうちはWeb業界の発展はない

なんて過激な意見まで。


これ、確かにそういう『勘違いくん』もいないことはないから仕方ない話なのかも知れないけど、紙がダメならバーチャルもダメってのは、両方やる身としてはちと違う気がする。


何が違うか、色々と思い付くまま書いてみよう。

印刷物の場合は実際に刷った状態を想定してつくる。

それは例えば大きさ。制作してる時にいつも原寸で表示させてる人なんて絶対にいない。そもそも完全に原寸比率1:1で表示させる事は不可能に近い。でもつくる際は常に原寸を意識してないと、文字が読めなかったり逆に大きくて超絶かっこわるくなったり。


それと、オフセットで刷ったヤツは画面より遥かに解像度の高い精細なもの(ポスターとか大判のは除く)だし、紙質によって艶も彩度も変化するから画面で見るのとでは色味がけっこうズレる。特に芸能人やら使う場合は、印刷時のこういう色ズレやら変換時(後述)の色ズレボケやら何やらを今までの経験値から正確に予測しとかなきゃなんない。だから、画面で見えるものと完成形とのズレ具合が見えてこないうちは、その感覚に馴れないうちは『つくりたいものをつくる』のは難しい。
馴れてくると自然と頭の中で補完しつつ作業するようになるんだけどね。


フォトレタッチに関しては特に、もう経験が何よりモノを言う。実際に触った枚数と技術がかなり比例してくる気がする。例えば一枚につき一分も時間を割けない状況でも何とかなる速度やら、写真の中に違和感なくリアルを『描き足す』技やら、またその逆に写真の中から何かを取り除く技やら、RGBをCMYKに変換しても透明感や彩度なんか一切損なわない(後述)腕やら、そういったスキルは何百万枚、何千万枚ってレタッチしてたら嫌でも身に付く。


ちなみにデジタル一眼レフで撮影した画像では、デジカメのくせに『現像』って作業がある。これは、カメラではあくまでセンサーが拾った光の情報だけを記録しておいて、その色味だったりコントラストだったり人間の目に見える画像として結ぶ変換の作業のこと。薬品も暗室もいらないけど、デリケートさは銀塩写真のそれ以上かも。ここで写真のベクトルが決まっちゃうからね。この作業は本来自分の目で撮影したカメラマンの仕事。でも信頼度が高い相手だと任されたりするケースもなくはない。勘弁してよホント。


・・・えー、気を取り直して。それから現像したものをtiff形式(無圧縮)というデータに書き出す。この時、解像度は最低350dpi以上を保つ。あんまり高すぎるとMacストライキを起こすので、機嫌を損ねない程度でw


この画像データは、光のデータから書き出してるから当然RGB。三原色ね。で、こいつをレタッチ(調整はもちろん、タレントなら目の隈を消したりシワを取ったりアホ毛を消したり、場合によっては描き足しとか大きな加工もある)する。まぁ、こういう作業はレタッチャーに任せても構わないと思うけど。


んで最後に、こいつをオフセット印刷できるデータに変換する。印刷機はシアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの四色(4C)を組み合わせてフルカラーを表現する。だから写真の方もこのCMYKで構成されたデータに変換しなきゃいけない。これが曲者で、透明度の高い光の三原色で出来てるモノを不透明なベタ塗りの4Cで無理やり表現させるんだから当たり前だけど色味がものすごく変わる。


PhotoshopCMYKが扱えるツールをお持ちの方は、例えば日焼けサロンの紫外線ライトのような「青白い光」を放っている画像を変換してみるといい。どれだけ変色・退色しているかが分かりやすいはず。これ、気付かないかもしれないが、全体で起こっている変化なのだ。こいつの部分部分の色を拾って比較しながら、元のRGBデータと同じ色に限りなく近づけていくわけ。もちろん手作業でね。自動で変換したままじゃダメダメなのは、さっき書いた通り。この作業が多分一番経験が必要で、難しいトコだと思う。

Webでのビジュアルは環境に依存する。

そういう制作段階以上のお化粧は、Webでは良くも悪くも施されたりしない。Macだと表示解像度を変更できたりするけど、それだってドットそのものが小さく細かくなってくれるわけじゃないから画面→紙みたいな変化はない。また『正しく』つくったのにブラウザによってレイアウトがきちんと表示されなかったり(IEとかIEとかIEとかね)する。更に色味に至っては相手の環境、それこそディスプレイの色表現性にも左右される。特にWindowsパソコンでは正しい色を表示しているディスプレイの方が珍しいほどだ。だからつくり手の腕がそのまま出るわけで、分かりやすいっちゃ分かりやすい。


それにセオリーと言えるほど確立したものは存在しない(と僕には思える)し、紙ほど経験値がモノを言わない。だから逆に言えば自由度が高いし個性も出しやすい。もしかしたら自分がWebのセオリーをつくっちゃうコトだってあり得る。


もちろん違いはこれだけじゃなくてもっとずっとたくさんあるから、片方が出来れば両方出来るなんて単純な話じゃないってコト。どっちにしても、こういったスキルや経験を身に付けるコトはプラスになるから、特にどっちもつくりたいって人はこの違いを忘れないように気を付けて取り組もう。